TCFD提言に基づく情報開示
基本的な考え方
気候変動問題は、気温上昇や自然災害の激甚化といった、大きな物理的リスクです。また事業面からは、脱炭素への移行がグループの事業運営、事業領域や製品コンセプトに大きな影響を与えるリスクとなる一方で、適切な対応策実施により、企業体質強化や競争力の向上、さらには新市場、新事業創出の機会になると認識しています。
このような認識の下、当社グループは2022年3月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同」を表明しました。TCFDが推奨する「気候変動が与えるリスクと機会」などの情報開示の枠組みを活用して、自社のリスクや機会の抽出、評価を行い、その対応策を事業戦略に反映させていきます。さらにその取り組みについて、積極的に情報開示を推進していきます。
※TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures):G20財務大臣・中央銀行総裁会議の要請を受けて、金融安定理事会(FSB)により設置された気候関連財務情報開示タスクフォースの略
ガバナンス
つばきグループのサステナビリティ活動は、「サステナビリティ基本方針」の下、COOが委員長を務める「サステナビリティ委員会」を中心に展開しています。
サステナビリティ委員会は、環境、品質、安全などの各委員会やサステナビリティ推進実務者会議の情報をもとに、リスク評価、マテリアリティ重要度評価を行い、当社グループの重要なリスクと機会の抽出、KPI・目標を設定し、その進捗を統括的に管理しています。取締役会は、このサステナビリティ委員会から活動状況やKPIなどについて定期的な報告を受け、取締役会によって監督を図る体制としています。
また、気候変動を含む環境課題に対する具体的な活動は、「つばきグループ環境委員会」を中心に活動を推進しています。環境委員会では、サステナビリティ委員会で実施したマテリアリティ重要度評価の結果を踏まえ、ステークホルダーからの要求と自社の取組みの進捗を検証し、重要度評価を実施。また、「カーボンニュートラルに向けた中期経営計画」「CO2排出削減ロードマップ」に従い実行計画を策定し、グループ全体で活動のPDCAを廻しています。
気候変動関連ガバナンス体制
Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、生産プロセス)
Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
委員長 | メンバー | |
---|---|---|
サステナビリティ 委員会 |
COO | 各事業統括(執行役員) 事務局:サステナビリティ担当役員、 人事担当役員 |
サステナビリティ 推進実務者会議 |
サステナビリティ担当役員 | サステナビリティ関連部門の部門長 事務局:サステナビリティ推進部 |
環境委員会 | 環境担当役員 | 椿本チエイン各事業部長、国内製造会社代表 事務局:サステナビリティ推進部 |
戦略(シナリオ分析)
1. シナリオ分析の実施体制と対象範囲
椿本チエインは、以下のプロセスで、TCFD推奨開示項目に関する自社の現状と課題の整理、開示項目の決定を行いました。
実施体制
対象範囲
事業範囲 | 全事業(チェーン、モーションコントロール、モビリティ、マテハン) |
---|---|
対象地域 | グローバル全エリア |
対象子会社 | 連結子会社 |
2. リスクと機会、重要度評価
考えられる気候変動リスクと機会について、「移行リスク」と「物理的リスク」に区分し、実際に想定されるリスクと機会の内容ごとに、影響度の大きさと期間の両面から重要度評価を実施しています。
※再エネ:再生可能エネルギー、省エネ:省エネルギーの略
3. シナリオ群の定義
気温上昇を1.5℃以内に抑えて脱炭素社会へ移行するシナリオ、および気温上昇が4℃に達するシナリオの2つのシナリオで2030年の社会を想定し、気候変動のリスクと機会を分析しています。
4℃ | 1.5℃ | |
---|---|---|
想定シナリオ | 想定される以上の対策がとられず、今世紀までに平均気温が4℃以上上昇する世界。自然災害の激化等が生じる | 気候変動の緩和に向けた取り組みが実施され、温室効果ガス排出量は2050年までに実質ゼロとなる |
外部環境変化の予測 | 低炭素化技術開発、再エネ移行、自動車のゼロエミッション化が進まず、自然災害が頻発するとともに激甚化傾向
*下図参照 |
自然災害の発生頻度、規模は現在と同等または微増。省エネ技術開発、再エネ移行、自動車のゼロエミッション化が加速
*下図参照 |
参照シナリオ | IPCC/RCP8.5 2100年における温室効果ガス排出量の最大排出量に相応するシナリオ |
IPCC/SR1.5 IPCCが公表した、1.5℃特別報告書に描かれる世界 |
※シナリオ分析の検討に際しては、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)および国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)を参照しています
シナリオごとの外部環境変化の予測
4. 事業インパクト評価
上記の2つのシナリオが財務指標に与える影響を検討しています。
図のとおり、気候変動に対する多くの移行リスクと機会が存在し、売上高、利益の両面に正負のインパクトを与えます。いかにリスクを最小化して、機会を最大限獲得するかが最重要課題となります。
今後は、事業部門ごとのシナリオを描き、それぞれの損益計算書(売上、営業利益)と貸借対照表(投資計画、ROEなど)への影響を分析することが重要であると考えています。
移行は移行リスク、物理は物理リスクの略
5. シナリオ分析結果
リスクへの対応と取り組み
シナリオ分析で抽出したリスクについて、そのリスクの大きさと対応策をまとめています。
※再エネ:再生可能エネルギー、省エネ:省エネルギーの略
機会への対応と取り組み
長期ビジョン2030に基づき、既存事業の収益性向上、変革成長による事業拡大、新規成長(新事業)の3要素でリスクと機会の要因を抽出し、対応策を検討しています。
※再エネ:再生可能エネルギー、省エネ:省エネルギーの略
リスク管理
当社では、環境・社会などに関わるCSR課題の重要度を評価するため、2019年度に自社にとっての重要度とマルチステークホルダーにとっての重要度の両面について、ESG関連部門の協議により「マテリアリティごとのリスクと機会の評価」を行いました(図1)。2020年度上期には、それぞれのマテリアリティに対するKPIと目標を設定し、これまでの活動を系統立て、中長期視点で経営課題として取り組む活動をスタートしています。2021年下期には、サステナビリティ委員会の新設と各委員会体制の見直しにより、ガバナンス体制を整備しました。今後は、サステナビリティ委員会において、定期的にESG関連課題のマテリアリティ重要度評価の検証・見直しを実施します。また、各課題に対する取り組み(PDCA)は各委員会組織の中で実行しています。
また、2021年度6月には、2030年をターゲットとする、当社グループの「長期ビジョン2030」を策定し、「目指す方向性/ありたい姿」を公表しました。将来の社会環境から想定されるリスクと機会から、当社が取り組むべきCSV課題/CSR課題とその役割を明確にしています。
環境課題の重要度・優先順位については、環境委員会において、「ステークホルダーにとっての重要度(縦軸)」と「当社事業にとっての関連性・影響度(横軸)」により評価を実施(図2)。ステークホルダーにとっての重要度は、マイナスの側面(低減すべきリスク)とプラスの側面(財務指標を向上する機会)の大きさで評価しています。この決定事項に基づき、2021年3月に「環境基本方針」を改定。気候変動課題への対応として、パリ協定の指針に従いCO2削減目標を引き上げ、削減活動を推進することをコミットメントしました。 今後も、環境委員会において、ステークホルダーからの要求と自社の取り組みの進捗を検証し、定期的に気候変動を含む環境課題の重要度評価を実施。重要事項はサステナビリティ委員会に上程・検討する体制としています。
これらのプロセスを経て、気候関連リスクの識別・評価のサイクルを回し、企業価値向上を目指しています。
サステナビリティ重要課題評価(図1)
環境関連重要課題(マテリアリティ評価)(図2)
指標と目標
気候変動に関するグループの中長期目標を下表のとおり設定しています。
※1 本目標は2023年のSBT認定取得に伴い変更しました。
※2 CDPとは、世界の企業や都市に対して、気候変動対応の戦略や温室効果ガス(GHG)排出量削減の取り組みなどを評価する世界有数のESG評価機関です。